自宅でも外出先でも、排泄は年齢・障害の有無に関わらず人間にとって不可欠な行為です。そのため、だれもが快適に利用できる公共トイレを整備していくことは、高齢者、障害者をはじめとするあらゆる人々が行動範囲を広げるための重要な要素です。
公共トイレとは?
不特定多数の方が利用する建物(駅、商業施設、公園、学校や事務所など)のトイレを指します。



どんな方に配慮が必要?
例えば車椅子使用者、オストメイト、乳幼児連れや高齢者など。さらに、男女別のトイレに入りづらさを感じられる方など、多様な利用者が想定されています。
公共トイレにおける多様なユーザーへの配慮
車椅子使用者用トイレ
車椅子でトイレを利用するには、スムーズに通過できる出入り口やトイレ内で方向転換できるスペースの確保が重要です。また、便器への移乗をサポートする手すりや座位を安定させる背もたれの設置も求められます。座位のバランスがとりにくい身体状況の方の脱衣介助が必要な場合、介助者の負担軽減のために大型ベッドを設置します。
ポイント
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車椅子に乗って開閉できる扉
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車椅子で回転できる広さ
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手すりや背もたれの設置
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大型ベッドの設置
車椅子使用者用トイレは、JIS Z8210(案内用図記号)で右の図記号による案内が推奨されています。
オストメイト用設備を有するトイレ
ポイント
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・立ったまま排泄処理ができる汚物流しの設置
・腹部の汚れやストーマ装具をすすぐ温水シャワー
・腹部のケア用品やストーマ装具を置ける小物置き
・手荷物やゴミ袋を掛けられるフック
・身だしなみを整える鏡や着替え台 -
出典:国土交通省「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」(令和3年3月)
オストメイト用設備のあるトイレは、JIS Z8210(案内用図記号)で右の図記号による案内が推奨されています。
乳幼児用設備を有するトイレ
乳幼児連れで外出先のトイレを利用する場合、ベビーカーごと入れる個室や月齢・年齢に応じた設備の設置が求められます。
ポイント
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・ベビーカーごと入れる広めのトイレ個室
・一般トイレ個室内へのベビーチェアの設置
・月齢・年齢に対応した設備(おむつ替えシートや着替え台)
・荷物置台やフックの設置 -
設置されている設備は、JIS Z8210(案内用図記号)で右の図記号による案内が推奨されています。
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おむつ交換台
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ベビーチェア
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着替え台
一般トイレ
一般トイレは、足腰が弱く動作が不安定な高齢者や、目から得られる情報が少ない(またはない)視覚障害者への配慮も必要とされています。視覚障害者が外出先のトイレを使用するには、トイレの場所を探す、男女別入口を認識する、個室や小便器の位置を探すなど課題が多く、空間レイアウトの工夫や音によるサポートが求められます。また、初めて利用することも多い外出先のトイレで「流し方がわからない」「洗浄ボタンと間違えて呼び出しボタンを押した」などのアクシデントが起こらないよう、分かりやすい器具の配置など、個室内にも配慮が求められます。
ポイント
- 高齢者
・足腰に優しい洋式便器
・手すりの設置 - 高齢者・視覚障害者共通
・分かりやすく見やすいボタン ※1
- 視覚障害者
・器具配置の統一 ※2
・触って分かるボタンや点字など
※1 2018年12月に、操作パネルの標準ピクトグラム(図記号)が、日本産業規格(JIS S0103:消費者用図記号)として登録されました。
https://www.sanitary-net.com/trend/standard/standard-jis03.html
※2 大便器まわりの操作系設備配置等の共通ルールを制定したJIS 規格もあります。
https://www.sanitary-net.com/trend/rules_for_public_restroom.html
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洋式便器
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洋式便器
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洋式便器
男女共用トイレ
近年では、異性による介助・同伴利用(高齢者、知的・発達障害者、視覚障害者など)、性的マイノリティの方などの利用に配慮した、男女共用トイレのニーズもあります。ただし男女共用トイレは誰もが望むものではなく、選択肢を広げることが大切です。
■認知症の方
認知症は、一人で買い物などに出かけられる軽度の方から、同伴者がいれば外出できる方、さらに介助が必要な方までさまざまです。認知症の主な症状として、
・慣れているはずのトイレのカギのかけ方がわからない(認知障害など)
・水を流すボタンが分からず呼び出しボタンを押した(理解・判断力の障害など)
・トイレが終わった後、来た道や待ち合わせ場所がわからず、迷子になる(見当識障害など)
などがあります。
出典:公共トイレの設計や管理にかかわる皆さまへ公共トイレハンドブック認知症編, 2018(社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団、日本工業大学、横浜国立大学)
■発達障害の方
発達障害のある子どもを持つ保護者の約8割が「公共トイレで困ったことがある」と回答しています。異性親子の場合、男女別トイレの利用に悩むなどが理由として多く挙げられます。
・突然、大きな音が鳴ることが苦手(感覚過敏など)
・目に入ったものをすぐ触ってしまう(不注意・衝動性など)
・知的障害がある人は、介助が必要になる場合がある(人的介助)
など、特性に応じたサポートが必要です。
出典:公共トイレの設計や管理にかかわる皆さまへ公共トイレハンドブック発達障害編, 2018(社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団、日本工業大学、横浜国立大学)
■性的マイノリティ(トランスジェンダー)の方
トランスジェンダーの中には、外出先のトイレ利用で困る人も多くいます。「出生時に付けられた性別のトイレ」か「性自認に沿った性別のトイレ」かの選択で困難を抱える人、男女に分かれたトイレを利用しづらいことで悩む人などさまざまです。
男女別トイレが利用しづらい人の例
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異性による介助
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異性による同伴
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性的マイノリティ(トランスジェンダー)
だれもが気兼ねなく安心して利用できるトイレ
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利用者の多様化に伴うトイレの整備が進む一方で、配慮のために様々な器具が設置された結果、多機能トイレを利用したい人が集中し、混雑していて「使いたいときに使えない」という声も上がっています。
多様な利用者がスムーズに利用できるよう、従来の多機能トイレ内にあった機能・設備をトイレ全体に適切に分散配置することが重要となってきました。 -
出典:国土交通省「共生社会におけるトイレの環境整備に関する調査研究報告書」(令和3年3月)よりグラフ作成
「機能分散」の考え方
出典:国土交通省「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」(令和3年3月)に加筆
公共トイレに「心のバリアフリー」を
「心のバリアフリー」とは、様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うことです。(「ユニバーサルデザイン2020 行動計画(2017年2月ユニバーサルデザイン2020 関係閣僚会議決定)」より)
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政府広報オンライン
「知っていますか?街の中のバリアフリーと「心のバリアフリー」」
国土交通省
「障害ってどこにあるの?こころと社会のバリアフリーハンドブック」
国土交通省は、トイレの様々な設備や機能について、ポスター・チラシを作成し、トイレの適正な利用に関する広報啓発の取組を行っています。 -
出典:国土交通省
「障害ってどこにあるの? こころと社会のバリアフリーハンドブック」
適切な配慮と、「使いたいときに使えない」を無くす機能分散で、高齢者、障害者をはじめとするあらゆる人々が行動範囲を制限されることのない社会の実現が期待されています。
イラスト協力:TOTO株式会社 株式会社LIXIL