研究など(インタビュー)
専門医に訊く(女性のための)温水洗浄便座の適切な使い方

第一回 女性の「おしも」の悩みと温水洗浄便座の適切な使い方 (三井記念病院 中田真木先生)

女性の「おしも」を清潔に保つ手段として、ボタンひとつで手軽に女性のデリケートゾーンを洗浄できる温水洗浄便座ですが、その使い方は利用者の習慣や好みによって違いがあり、いまさら訊けない疑問や質問もありそうです。
女性の「おしも」の悩みと温水洗浄便座の適切な使い方について、三井記念病院産婦人科の中田真木先生にお訊きしました。

◎プロフィール

1981年東京大学医学部医学科を卒業、同附属病院産婦人科で研修開始。
1991年仏政府給費留学生(科学技術部門)。
1995年より東京警察病院勤務。
2002年より現職。

意外と知らない、「おしも」のトラブルのメカニズム

Q1.日常生活で清潔を心がけているようでも、時々感じるおしものかゆみや痛み、ニオイ。このようなトラブルは、なぜ起こるのでしょうか?
昨今は、産婦人科でも、デリケートゾーンのかゆみや痛み、ニオイのご相談が増えています。これらのトラブルは、昨今の女性のライフスタイルが関係しています。もともと女性の外陰部は腟の分泌物で湿っている場所。その部位を長時間スリムなパンツスタイルやタイトなランジェリーで閉じ込めておくと、トラブルが起こりやすいのです。
Q2.蒸れてニオイがしてくるのはイメージできるのですが、ズボンスタイルやきつい下着がかゆみや痛みなどのトラブルにつながるのはなぜでしょうか?
まず、皮膚や粘膜が着衣やパッドでこすれてかゆみや痛みを起こすということがあるようです。その他、本来女性の腟内は一定の常在菌(註)がバランスを保って生育している場所で、排卵や月経のある年代では乳酸菌の一種の『ドゥーデルライン桿菌』が支配的なため有害な細菌は増殖しないものなのですが、汗や皮脂を分泌する外陰部もひっくるめてデリケートゾーンを締め切っておくと、腸内細菌、ガードネレラ菌、ブドウ球菌などといった本来腟内からは駆逐されるはずの有害な細菌が腟内に生育するようになります。
(註)「常在菌」:身体部位のうち無菌的でない箇所では、無害な細菌が安定した状態で生育しています。皮膚の表面、口や喉の中、大腸の内腔などがこれにあたります。このような場合に、生育菌をその部位の常在菌と呼びます。

温水洗浄便座でできること、できないこと

Q3.トイレへ行ったときに温水洗浄便座でデリケートゾーンを洗うと、有害細菌を洗い流すことができますか?
腟は肛門近くにあり、排便後に便や直腸の粘液などが肛門周囲に残ると汚染を受けやすいということは言えます。排便後に肛門とその周囲を温水洗浄便座で洗い流すことは、汚染の原因となる便や直腸の粘液を拭い去るという意味があります。一方、デリケートゾーンと腟内をまとめて締め切ったために外陰部が蒸れて清潔度が落ちているときには、腟内にも有害菌が生育していますから、外陰部を温水洗浄便座で洗い流すだけでは問題は解決しません。
Q4.ニオイの気になる時に、温水洗浄便座で腟内を念入りに洗えば有害菌を洗い流せるような気がするのですが…
温水洗浄便座で腟の中を洗うことはしないでください。温水洗浄便座は腟の中を洗うための道具ではありません。
外陰部と腟を締め切って有害菌が腟内に入り込んでいる場合には、温水洗浄便座で中途半端な『腟洗浄』を繰り返しても正常な細菌バランスは戻ってきません。腟の中の清潔度を上げるには、外陰部と腟を締め切ってある状態を手入れすることが必要です。
なお、正常な腟内細菌を持つ人でも、腟内を洗い流すとその後常在菌が元通りのバランスを取り戻すには少し時間がかかります。西洋には古くから一部に腟内を洗浄する習俗があり、 この習俗に対して医学的には『腟洗浄』を行うと常在菌のバランスが不安定になるという批判がなされています。
Q5.私の友人で、かゆいとき、水流を最強にして思い切り洗うとすっきりすると言う人がいます…
確かに、かゆみの部位を強い水流で刺激すると直後は気持ちがいいかもしれません。しかし、かゆみの部位にはもともと炎症がありますから、その部位に強い水流をあてるとまたまたかゆみを強める物質が放出され、炎症はさらに激化かゆみも強まります。一瞬よくても、その後は逆効果です。
ひとつふたつの虫さされなどは掻いてもたいしたトラブルになりませんが、アトピー性皮膚炎など体質的なかゆみ素因のある人でかゆみの範囲が広い場合には、かゆいときにがまんせず掻いていたらたいへんなことになってしまいます。かゆみへの対応は、あくまで掻きむしらない、局所を刺激しない、が鉄則です。 デリケートゾーンにかゆみのあるときには、着衣やパッドによる摩擦や温水洗浄便座による刺激を減らす方向にしましょう。ビデ洗浄はソフトな水流で短時間洗うだけにしてください。強い水流で念入りに洗うことではかゆみを抑えられませんし、『洗う』操作によってかゆみの部位を刺激することは長い目でみて逆効果です。

デリケートゾーンを守る

Q6.局部のかゆみや痛み、ニオイを起こさないようにするには、具体的にどのように対処したらよいのでしょうか?
まずは風通しを良くすることです。皮膚と下着、あるいは皮膚とパッドの間に少しすきまのできるような服装・下着を心がけましょう。
お仕事中や外出中はどうしても密閉せざるを得ないのでしたら、せめて帰宅後は着替えてデリケートゾーンが『息をできる』ようにしましょう。
男性が帰宅したらネクタイをとるように、女性もパッドをはずした方がよいですね。
Q7.ニオイの気になるときにパンティライナーを使うのは構いませんか。
ニオイの気になるときは、腟の常在菌のバランスが崩れています。ニオイのためにどうしてもパッドをあてたくなるのは、わからないでもありませんが、パッド類で外陰部と腟を締め切ることでは、またまた悪循環になってしまいます。
子宮や腟の健康、デリケートゾーンのケアという考え方では、長時間にわたって外陰部を締め切り蒸れるままにしておくことは問題です。ニオイが気になるときこそ、外陰部と腟を締め切るのはやめ、着衣などを工夫して外陰部の風通しをよくすることを考えましょう。
Q8.ニオイが気になるとき、オーデコロンをつけても構いませんか?
下着や外陰部の皮膚、粘膜には、化粧品や香水などをつけないでください。外陰部がかゆいとき、顔面の皮膚で言うなら化粧負けをしているのに近いですから、石鹸やクレンジングにしてもその他の化粧品にしても、じかに香料をつけることは避けましょう。くどいようですが、なるべく刺激を減らし通気のよい服装にして、3~4日間皮膚や粘膜の回復を待つことです。
Q9.産婦人科へ受診する必要のあるのはどのような場合ですか?
かゆみとニオイで産婦人科へ受診する人のほとんどは、薬剤など医学的治療の必要があまりない、というかむしろ医学的な手段によっては問題を解決できないケースです。問題の本質は病原体による病気というより生活習慣に在り、医学的なケアよりも正しい衛生管理がカギです。正しい衛生管理ができれば問題は解消します。
受診するより前にまず着衣やパッド類を点検、下着やパッド類による密着や密閉を避けてください。洗浄便座については、ビデも肛門洗浄もあっさりと洗う(洗いすぎを避ける)ようにして、3~4日経過をみて下さい。強い水流を腟内へ浴びせないようにしてください。
蒸れないように、皮膚や粘膜を傷めないように(洗いすぎない、掻きむしらない、擦らない)管理していれば、ふつうは3~4日でよくなります。これでもしもよくならなかったら、さらに自己治療することは避けて産婦人科へ相談してください。
処方箋なしに薬局で買える外用薬もありますが、添付文書に粘膜につけないよう注意書きがあるものは、外陰部には塗布できません。激烈なかゆみなど、セルフケアで3~4日間をしのぐことすら難しい場合は、迷わず受診してください。その場合は医学的な応急処置の出番です。
一般社団法人
日本レストルーム工業会からの
お知らせ

中田先生のお話しにございましたように、昨今の女性のライフスタイルの変化(スリムなパンツスタイルやタイトなランジェリーをつけて長時間過ごす)やパッド類の使用の増加により、局部のムレや肌ストレスなどデリケートゾーンのトラブルも増加しています。
温水洗浄便座で洗浄し、デリケートゾーンを清潔に保つことは、トラブルの防止に大変有効なことです。しかし、例えば、かゆいからといって過剰に洗い過ぎてしまうと逆効果になってトラブルが悪化する場合があります。
以下のとおり使用上の注意を守って、清潔で快適なデリケートゾーンを保ちましょう!!

《温水洗浄便座の使用上のご注意について》

■温水洗浄便座のご使用方法について

〇おしり洗浄は排便後の局部周辺に付着した汚れを洗い流す機能です。

〇ビデ洗浄は生理時など局部周辺に付着した汚れを洗い流す機能です。

〇水勢は「弱」から試し、慣れたら徐々にお好みの水勢でご使用ください。

〇温水温度は季節に応じてお好みの温度でご使用ください。

〇おしり・ビデとも洗浄時間は10秒~20秒を目安にご使用ください。

【ご注意】

●長時間の洗浄や洗いすぎに注意してください。また、局部内は洗わないでください。

※常在菌を洗い流してしまい、体内の菌バランスが崩れる可能性があります。

●習慣的に便意を促すためには使用しないでください。また、洗浄しながら故意に排便しないでください。

●局部に痛みや炎症などがあるときは、使用しないでください。

●局部の治療・医療行為を受けている方のご使用については、医師の指示を守ってください。


【警告】

 化学療法を受けておられる方、免疫不全症の方など、極度に免疫力が低下して医師の治療を受けておられる方は、ご使用に際し、医師にご相談ください。
身体への著しい障害をまねくおそれがあります。