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◎プロフィール1990年北里大学卒、
1998年に医学博士号取得。
北里大学病院、聖路加国際病院などでの勤務を経て、2013年4月から現職。
女性の骨盤底障害による骨盤臓器脱や腹圧性失禁の手術療法、過活動膀胱などの排尿障害を専門に取り組む。
日本泌尿器学会専門医、指導医。日本透析医学会専門医。

女性泌尿器系の悩みと温水洗浄便座の適切な使い方(武蔵村山病院 大川あさ子先生)

女性にとって泌尿器科の病院や先生はちょっと行きにくいと思われている方が多いのではないでしょうか?
実はそうでもないのです。女性にとって膀胱炎※1は身近な疾患です。ただ、身近な疾患であるがゆえ、軽く考えてしまい、再発を繰り返してしまう人も多いようです。身近な疾患だからこそ、正しい知識を身に付け対処することが必要です。今回は、女性にとっての泌尿器科、特に膀胱炎をメインにどういう疾患なのか、予防はどうすればよいかなどを武蔵村山病院泌尿器科科長の大川あさ子先生にお話をお訊きしました。 ※ここでいう膀胱炎とは、最も一般的な「急性膀胱炎」を指します。膀胱炎にはそのほか「慢性膀胱炎」や「間質性膀胱炎」などの種類があります。

*ご所属は掲載当時のものです。

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Q1.基本的な質問で恐縮ですが、泌尿器科というとどのような疾患が多いのでしょうか?

一番多いのは腎臓や膀胱、前立腺などのがんです。
続いて前立腺肥大、排尿障害、尿路結石が続きます。尿路結石は男性の6人に1人がかかるといわれている疾患です。女性は15人に1人なので、男性は女性の倍以上なりやすいのです。
みなさん泌尿器科というと、いわゆる性病、STDと呼ばれる性行為感染症というイメージが強いようですが、実はSTDは泌尿器科を受診される方の中では少数なのです。

Q2.男性の疾患の方が多いのですね。女性の疾患についてはどうでしょうか?

確かに全体としては男性の疾患が多いのですが、女性特有の疾患もあります。代表的なのは骨盤臓器脱です。これは筋肉の衰えによって膣から内臓が下がってくる疾患です。急性膀胱炎も圧倒的に女性の罹患率が高いです。

ウロギネコロジー※2(別名:婦人泌尿器科)と呼ばれる領域では、骨盤臓器脱や尿失禁、頻尿など泌尿器科にも婦人科にも関わりがある疾患を診ます。出産を経ることにより尿失禁をきたす女性は多いです。ただおしもの悩みというのは、恥ずかしさもあってなかなか人に相談しにくく、医療機関を受診しない患者さんが多いのです。しかし、おしもの悩みは患者さんのQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)に直結する大きな悩みです。実際、そのために外出や旅行などを諦めてしまう方もいらっしゃいます。そんな状況を改善しようとできたのがこの領域です。まだまだマイナーな領域ではありますが、どんどん身近な存在になってほしいと思っています。

※2:ウロギネコロジーとは、「ウロロジー(urology):泌尿器科」と「ギネコロジー(gynecology): 産婦人科」という言葉を合わせた造語です。

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Q3.膀胱炎は具体的にはどのような疾患でしょうか。

膀胱炎は、細菌感染で膀胱が炎症を起こした状態のことです。のどに菌が入れば風邪、膀胱に菌が入れば膀胱炎になります。ただし、細菌1個ですぐに膀胱炎になるわけではありません。目安としては、細菌数が1万個/ccを超えれば膀胱炎ということになります。下記のような症状があれば膀胱炎を疑ってください。

もしかしたら膀胱炎かも?「膀胱炎チェックリスト」

  • ・排尿の最後に痛みがある
  • ・おしっこがにごる(血が混じることも)
  • ・トイレに行く回数が増える(就寝中も行きたくなる)
  • ・残尿感がある(おしっこを出してもスッキリしない)

女性は、男性よりも尿道が短く(男性の14~18cmに対して女性の平均は3.5 cm)、また、尿が出る場所(尿道口)が肛門や膣に近いため、男性よりも細菌が膀胱に侵入しやすいと考えられています。
膀胱炎では通常高熱は出ないのですが、細菌が尿管を逆行して腎臓の腎盂(じんう)と呼ばれる場所まで達し、炎症を起こすと38℃以上の高熱が出ます。これは腎盂腎炎という疾患で、腰のあたりに痛みが出る(腎臓が大体腰の高さにあるため)ことも特徴です。こうなってしまった場合は、早めに医療機関を受診するようにしてください。

Q4.膀胱炎になってしまった場合はどうすればいいでしょうか?

まず、水分を十分とってこまめにトイレで排尿してください。症状が半日以上続くようなら医療機関を受診してください。最初から泌尿器科を受診するのはハードルが高いかもしれませんので、その場合は内科や婦人科でも大丈夫です。泌尿器科を受診していただいても診察は通常尿検査をするだけで、恥ずかしいことはありません。よほどのことがなければおしもの内診などはしませんので、安心して受診してください。医療機関では細菌を殺す抗生物質を処方しますので、それを最後まで飲みきってもらうことが大切です。症状がなくなると服薬をやめてしまう患者さんが多いのですが、中途半端にやめてしまうと細菌が消えていない場合にはすぐに再発することもありますので、処方された分はしっかり服用してください。
あとは、いつもより多めの水分をとり、おしっこを長時間我慢しすぎないことが大切です。私は患者さんに、「おしっこで膀胱をきれいに洗い流してください」と伝えています。細菌は抗生物質で殺せますが、炎症を治すのは自分の免疫力ですから、基礎体力も必要です。膀胱炎に限りませんが、体調にも十分注意してください。
また清潔を保つことも大切ですから、生理用ナプキンやおりものシートは長時間つけっぱなしにせず、3時間くらいで替えるようにしてください。なお、尿失禁などでパッドを使用する際は、必ず専用のものを使うようにしてください。たまに、生理用ナプキンの上にティッシュペーパーやトイレットペーパーをたたんで間に挟み、汚れたらペーパーだけ替えるという方がいるのですが、これはすすめられません。尿とりパッドというのは、おむつと一緒で1回吸い込むと水分が戻らないようになっていますが、ペーパーは水分がつくとそのままジメジメしているので、皮膚かぶれの原因になりますし、細菌も繁殖しやすい環境になってしまいます。ですから、尿もれがある場合は、ちょうどよい吸収量の専用の尿とりパッドを使い、こまめに替えるようにしてください。

Q5.トイレに行くのを我慢すると膀胱炎になるというのは本当でしょうか。

そんなことはありません。膀胱炎になりやすいのは、水分をとらずに1日2~3回しかトイレに行かない、という状況です。成人において膀胱は最大350~450 ccくらいの尿をためることができます。トイレに行く間隔は4~5時間くらいが理想的です。これを維持できていれば、少量細菌が膀胱に入ったとしても、増える前におしっこで洗い流すことができます。また極端なダイエットもおすすめではありません。ダイエットをすると、食事だけでなく水分摂取量も減ってしまうことが多く、その分1日の尿量も減ってしまいます。「どうしても朝食を食べることができない」という場合は、1食につき、いつもより500 cc多めに水分をとるようにしてください。
ただ3~4時間おきに尿を出せばいいのかというとそうではありません。膀胱に尿がたまっていないのに頻繁にトイレに行くことを長く続けていると、徐々に膀胱の容量が小さくなっておしっこをためる能力が弱り、十分な量をためることができなくなってしまうことがあります。普段から十分な水分を摂取し、膀胱に適切な量をためて、適切な回数トイレに行く、というのが膀胱炎を予防し、快適なトイレライフのためには大切なことです。

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Q6.膀胱炎にかかっているとき、温水洗浄便座の使用方法で注意する点はありますか?

膀胱炎に罹患しているときは、膀胱が細菌に感染している状態です。そうなると普段よりきれいにしたいという気持ちが働いて、強い水流で洗ったり、ゴシゴシ拭いたり、ということがあるかもしれませんが、それはやめてください。

膀胱炎の治療のために特別に温水洗浄便座を使用する必要はありません。どうしても使いたい方は尿が出る場所(尿道口)を避け、周囲を弱い水流で洗った上で、水滴をやさしく拭くようにしてください。拭く際もこするのではなく、水分を吸い取るように当て拭きしてください。これは膀胱炎になったときに限らず、普段からそうするよう心がけてください。

Q7.通常時の温水洗浄便座の使い方についてはどうでしょうか。

基本的には、みなさん排便時と生理中に使用することが多いのではないでしょうか。排尿の時にも使うという方は少数派かと思います。泌尿器科医の立場から言わせていただくと、膀胱の中は本来無菌で、おしっこはきれいなのです。おしっこだけのときは神経質に洗わなくても大丈夫です。もちろん、気になったときは使って構いませんが、その際もビデのごく弱い水流で周囲を洗うようにし、尿が出る場所(尿道口)を狙って尿道の中まで洗うような使い方は絶対にやめてください。

Q8.ありがとうございました。最後に、先生からおしもの悩みを抱える女性に向けて、メッセージをお願いします。

おしもの悩みは相談しにくいものです。女性のみなさんにおすすめしたいのは、内科でも婦人科でもいいので、かかりつけ医を持つことです。かかりつけの先生がいれば、おしもの悩みも少しは相談しやすいと思いますし、自己管理という点でもとても有効だと思います。また軽い膀胱炎であれば内科でも診てくださいますし、必要に応じて専門医に紹介状を書いてくださいますから、信頼できるかかりつけ医を持っていると安心です。ただし、すでに膀胱炎を何回も繰り返しているような場合は、泌尿器科を受診してください。また産婦人科では女医さんを選んで受診される方も多いようですが、産婦人科と違って泌尿器科には女医さんは3%弱、全国で300人弱と極端に女性の医師は少ないのです。女性医師をむやみに探すのではなく、きちんと診てくださる泌尿器科に行くことが大事です。

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「膀胱炎」を予防するための10の心得

1.適量の水分(1日1~2L)をとる2.無理なダイエットは避ける3.ストレス・疲労をためないようにする(体力・抵抗力低下の防止)4.下半身を冷やさないようにする5.骨盤底筋を鍛える6.外陰部の清潔を保ち、排便のときは前から後ろに拭く7.生理用ナプキンやおりものシートは3~4時間ごとに新しいものに替え、清潔に保つ8.尿もれがある場合は、専用の尿とりパッドを使う9.性行為の後はできるだけ早めに排尿する10.刺激物(辛い物・アルコール・カフェインなど)はほどほどに