専門医に訊く(女性のための)第三回:女性の痔と温水洗浄便座の適切な使い方
最近、痔に悩まされる女性が増えているようです。手軽に患部を清潔にできる温水洗浄便座はそんな女性たちの強い味方ですが、皆さんは温水洗浄便座の適切な利用法をご存知でしょうか? ホルモンバランスの変化や妊娠・出産、ダイエットなどによって女性が痔になるリスクは意外に高いもの。今回は、女性の「痔」対策と温水洗浄便座の適切な使い方について、マリーゴールドクリニックの山口トキコ先生にお訊きしました。
- 山形県生まれ
- 東京女子医大大学院卒
- 東京女子医大一般外科医局での研修を経て社会保険中央総合病院、大腸肛門病センターに6年3ヶ月勤務し、2000年2月1日に赤坂にスタッフ全員が女性のマリーゴールドクリニックを開業、日本で初めて「痔」の女性専門医として活躍中。
- 日本大腸肛門病学会専門医・指導医。
女性の「痔」対策と温水洗浄便座の適切な使い方
「痔」は国民病とも言いますが、症状に男女差はあるのでしょうか。
また、「痔」になる若い女性が増えていると聞きますが、その原因は何でしょうか?
症状に男女差はほとんどありません。内痔核(ないじかく)、いわゆるいぼ痔が60%程度、裂肛(れっこう)(切れ痔)が35%、残り数%が痔ろう(あな痔)になります。ただ、若い女性は切れ痔になる方が多いです。私のクリニックは、患者さんの80%が20代から40代の女性ですから、切れ痔の方が60%程度いらっしゃいますね。
切れ痔の一番大きな原因は便秘です。
便秘になると、便が硬くなりますから排便の際に肛門を傷付け、それが原因で切れ痔になってしまいます。
あとは若いと筋肉に張りがあるので切れやすいということもありますね。
その他冷え性や、ストレス過多、食生活の乱れなども便秘になるリスクを高めます。
妊娠・出産も痔の原因になりやすいと聞きますが、これについてはどうでしょうか。
確かに、妊娠中はホルモンの影響を受けたり、大きくなった子宮が腸を圧迫するなどの理由で便秘になりやすいですし、出産時のいきみも肛門に大きな負担です。出産後は母乳として大量に水分が消費され、結果便が硬くなって便秘になり、痔の原因になります。このように、妊娠から出産、授乳の時期は痔になるリスクが高くなります。
ただ、この時期は「痔になりやすい」ということを理解して、食生活に気を遣ったり、お風呂で温めるなどの予防を心掛ければ、それほど神経質にならなくても大丈夫ですよ。私のクリニックに来る20~30代の患者さんは、妊娠・出産を経験していない方が断然多いですから。その他の要因、日々の生活習慣が原因であることの方が多いです。
「痔」にならないために日頃から気を付けるべき点はどんなことがありますか?
便通サイクルを整えることです。これは個人差がありますから、自分のサイクルを把握し、下痢や便秘などの便通異常にならないようにしましょう。そのためには、便意を我慢しないことが大切です。便意を感じたらすぐにトイレに行くようにしてください。トイレに座っているだけで臀部がうっ血しますので、トイレに長居するのもよくありません。トイレでは長時間いきむことは避け、なるべく3分以内で出るように心掛けたいですね。
また、朝ご飯をしっかり食べることも大切です。食べることで内臓が目覚め、便意を感じやすくなります。ですから朝はとても大切な時間です。ぜひ朝は余裕を持って起きて欲しいですね。
他には、食物繊維や水分をしっかり摂る、湯船に浸かって体を温める、長時間同じ姿勢を続けない、ストレスをためないといった点にも気を付けていただきたいです。
「痔」になってしまった場合に、温水洗浄便座を使用するメリットはなんでしょうか。
使用する際の注意点もあれば教えてください。
一番のメリットは、患部の清潔さが手軽に保たれるという点です。以前は、術後の患者さんや症状がひどい患者さんには、「座浴(ざよく)」の指導をしていました。大きなたらいにお湯をはってもらい、そこにお尻をつけてもらうことで清潔さを保つものです。それが今では、「温水洗浄便座」の普及によって随分便利になりました。また、人によっては、排便後おしりを拭く際にゴシゴシと強く拭いてしまい、患部が擦れて悪化することもあるようです。温水洗浄便座を使えばそれも防げますね。
使用後は、水滴を吸い取るように優しく抑え拭きをしてください。乾燥機能がついていればそれを使用するのもいいと思います。ただ、使い過ぎには気を付けましょう。これは痔を患っている、いないに関わらず注意していただきたいですね。「洗えば洗うほど清潔になって良い」という訳ではないということです。洗い過ぎは皮脂膜をはがしとってしまうことにもなりますので、適切な使用回数、量を守りましょう。具体的には、おしり洗浄やビデ洗浄では、人肌程度の温度で10~20秒ほど洗う、という点を守ってください。水圧は、使い初めは「弱」から試していただき、慣れたら徐々に強くして自分にあった水圧を見つけるのがいいですね。切れ痔の場合には、強い水圧で使うと痛みを感じることがあります。
温水洗浄便座の使用方法により、「痔」になる、または症状が進行する、といったことはありますか?
温水洗浄便座の使用で「痔」になったというのは聞いたことがありません。症状が進行した、というのもあまり聞きませんが、先ほど話したように、洗い過ぎて肛門周囲の皮膚の皮脂膜まではがしとってしまい、結果患部もただれてかゆみや炎症を促進してしまった、という例はあるかもしれません。しかしこれも洗い過ぎに気を付けていれば大丈夫です。取り扱い説明書を読んで適切な使用方法を守って使っていただけば、手軽に患部の清潔さが保たれますからあまり神経質になることはないですよ。
温水洗浄便座を使用する際、特に女性だけが気を付けるべき点はありますか?
女性は、黄体ホルモンの増減によって、生理前は便秘になりやすく、生理中は下痢になりやすい傾向があります。これもホルモンの影響を受けやすい人、受けにくい人がいますので一概には言えませんが、生理中下痢になりやすいという人は、一度にビデ機能もおしり洗浄機能もどちらも使いたいと思われるかもしれません。これについても、特に問題はありませんが、やはり洗い過ぎには気を付けましょう。
「痔」の予防には便通サイクルを整えることが大切だとのお話ですが、温水洗浄便座を排便促進のために使っている方がいるようなのですが、これについてどうお考えですか?
もし習慣的にそうした使い方をしているなら、止めた方がよいと思いますよ。理想は、自然に便意を感じ、トイレに行って排便する、という流れです。やはり温水洗浄便座の本来の目的は「おしりを洗ってきれいにする」ということのはず。それを逸脱して使うのはあまりおすすめできませんね。
最後に、先生からおしりに悩みを抱える女性に向けて、メッセージをお願いします。
当院は私をはじめスタッフ全員が女性ということもあって、女性の患者さんがとても多いです。昔は、妊娠・出産を機に痔になるという方が多かったのですが、最近は経産婦でない10代~30代の女性もとても多いですね。激辛料理の流行、食の欧米化などの食生活の変化、過激なダイエットも一因です。
女性の場合、受診する恥ずかしさもあってか、症状が悪化してから来られる方も多いのですが、排便時に出血がある、痛みがある、という場合は一度お医者さんに診てもらうようにしましょう。手術まで必要な方は1割程度ですし、ほとんどの方は1回の診察で治るんですよ。排便時の出血は原因が大腸がんのこともありますから、ぜひ怖がらずに診察を受けることをお奨めします。
「痔」にならないための10個の心得
- 朝食をしっかり食べる
- 食物繊維、水分を摂る
- 断食するなどの過激なダイエットをしない
- 湯船に浸かりしっかり体を暖める
- 長時間同じ姿勢を続けない
- 便意を感じたら我慢をせずにすぐにトイレへ
- トイレの時間はなるべく短くする(3分以内を目安に)
- 排便のとき無理に長時間いきまない
- ストレスや疲れを溜めない
- トイレに流せるウェットティッシュなど市販のおしりケア商品や温水洗浄便座を上手に使っておしりを清潔に